今回はカブ70のブレーキを強化します。
鉄カブ主の方ならご存知の通り鉄カブ、特に50と97年までの70と90はフロントのドラムブレーキが効かない!
ディスクブレーキに慣れてると
“壊れてんじゃねぇか”
というくらい効きません。
感覚的には雨の日のママチャリのフロントブレーキみたいな感じ!
モンキーに初めて乗って時も
“ブレーキ効かねぇ”
と思ったけど、カブはもっと効かない。
このフロントブレーキが弱いのは、ちゃんと理由があるそうです。
カブが設計された高度経済成長の時代、日本にはまだまだ未舗装路が多かったようです。
道路が舗装から未舗装路に変わった時、フロントブレーキを掛けてもスリップダウンしないように、敢えて効きが弱めの小径フロントブレーキと
フロント荷重を逃がす為のボトムリンクサスを組み合わせた、という話を聞いた事があります。
ボトムリンクってのは、フロントに付いてるスイングアームみたいなもんです。
こんな形です。
カブの場合は、仕事用バイクという位置付けになったのは、実は後付けです。
奥さんが自転車で重い荷物を苦労して運んでいるのを見た本田宗一郎さん。
女性でも簡単に乗れるバイクが有れば、もっと楽に荷物を運べるんじゃないか?
こうしてカブが誕生した、らしいです。
元はと言えば女性や初心者が乗り易いように、という発想なので男相手のような”ウデでカバー”と言う問題じゃないんです。
例え男でも、フロントが滑ったらまずコケますからね。
第一、当時の道路状況は現代よりも遥かに車は少ないし、ゆっくり走っていたんでしょう。
だからハイペースで走れる事より路面変化に対応できる事の方が重要だったんだと思います。
その名残りなのか、スーパーカブは1990年代後半まで、あまり効かないフロントブレーキで頑張っていました。
そんなカブ70も1998年の最終型に来て、フロントドラムブレーキを強化します。
さすがに平成にもなって、砂利道だらけだった頃と同じってどーよ?って意見が出たんでしょうね。
まぁ、効かないとは言ってもリアブレーキは普通に効くので、アメリカンやモンキーみたいにリアをメインにしてフロントブレーキは補助だと思えば、普通に走る分には問題無いんですが。
効かないブレーキで走ってると、思わぬメリットもあります。
「かもしれない運転」が身につく事です。
教習所でやりましたよね?
「だろう運転」と「かもしれない運転」。
「だろう運転」てのは「どうせ飛び出して来ないだろう」という甘っちょろい考えの事。
「かもしれない運転」とは「飛び出して来るかもしれない」というチキン思考の事。
もちろん、公道ではチキン野郎の方が幸せになれます。
僕も何度も事故って、痛くて恐くて面倒臭くて金かかる経験をしたお陰で、最近やっとチキン野郎になる事が出来ました。
で、今回は、ちょうどリムが錆びて穴が開いてるのを発見した事、どうせホイールを新調するなら、ついでにカブ70の中では、ちょっとゴージャスな最終型のデカドラム仕様にしてみたいな、という事で最終型のパーツを移植するだけで完了するプチ純正流用チューンをする事にしました。
因みに穴が開いたリムとはこれ。
これはさすがに交換ですね。
バイク屋さんで調べてもらった所、70の最終型、年式で言えば98〜99年式の部品番号で取り寄せようとするとメーカー在庫切れでした。
バイク屋さん曰く「90用でも物は同じ」との事で90ccの部品番号で取り寄せました。
今回、交換したパーツのリストです。
まずはフロントホイールのアッセンブリーです。
次はフロントブレーキのブレーキパネル。
そしてブレーキシュー。
これはブレーキカムです。右側の大きな方がデカドラム用です。
これはフェルト。ブレーキカムに嵌めるダストシールです。消耗品です。交換しましょう。
これはブレーキレバーのリターンスプリング。劣化してなければ交換しなくても良い部品です。
これはインジケーター。どの位、シューが減っているか?を外側から見られるスグレモノ!モンキーには付いてない。カブ主になって初めて見ました。これ便利です。これも劣化して無ければ交換の必要はありません。僕は、安い部品だし、ピカピカだと気分良いので交換しました。
これはアクスルシャフトの左側に嵌めるカラーです。径が変わるので要交換です。
これはアクスルシャフト用のナット。もちろん交換です。
これはボトムリンクのアーム。パーツリストにはクッションアームと書いてあります。これも径が違うので交換です。
これはアクスルシャフト。これが太くなるので周辺の部品も全部交換になります。
これはブレーキアーム。これは長さが違います。交換しましょう。
こうしてパーツを並べてみると・・・
結構サイズが違うのが分かりますね。
クッションアームのピボットには金属製のカラーが入ります。ホントは消耗品ですが、先日交換したばかりなので再使用します。
クッションアーム左端の穴がアクスルシャフトが通る穴です。肉厚が全然違います。
車体関係の組み付けではこれを使う事が多いです。ワコーズのハイマルチグリス。高荷重が掛かる所はだいたいこれです。
ワコーズのハイマルチグリスは同じくワコーズのマルチパーパスグリスと比べると高温時に硬くなる事がある、とワコーズの営業さんに聞きましたが、高速回転する部位でも無いので、高荷重が得意なウレア系にしています。
今回のデカドラム化に必要なパーツは簡単に言えば、クッションアーム、つまりボトムリンクのアームですね、そのアーム以遠のパーツ全部です。タイヤとチューブは除きます。
上の写真では右のクッションアームとサスペンション本体は外してあります。
左はホイールを外しただけです。右側みたいな状態にしないとパーツの交換が出来ません。
ただし、初めてフロントサスペンションを外す場合は、サスペンション本体がなかなか抜けないと思います。
そんな時は、ホイールを外したら、先にサスペンション本体の上部を留めているボルトを外しましょう。
外したボルト穴にラスペネ等の浸透潤滑剤を吹きます。
これはサスペンション上部に嵌ってるラバーがキツキツなので少しでも滑らせる為です。
そしたら、クッションアームの先端を下に押し下げて、テコの原理でサスペンションを抜きましょう。
このテコの原理は組み付ける時にも使えます。
このテコの話があまり書いて無いんですよね。
不親切極まるホンダのサービスマニュアルはともかく、市販のカブのメンテ本とかにもあんまり出て来ない。
もしかして、その程度言われなくても分かるだろ!って事でしょうか。
僕は最初、これが分からなくて2時間くらい苦戦しました。
話を戻して、共用可能なパーツを交換するか?という話ですが、
共用出来る部品もあるっちゃありますが、消耗品のような安い部品ばかりなので、全部交換しちゃう方が良いと思います。
また、あまり安くはないリムとスポークとホイールベアリングは、再使用出来るか?
出来ない訳じゃ無いけど、おそらく今付いているホイールは、走り出し込んでくたびれている事でしょう。
ホイールを組み直すのは一苦労です。ホイール組みに慣れていたとしてもニップルは交換、スポークもネジ部が固着していて切断する羽目になるかも知れません。
ベアリングだって当然交換した方が良い。
となると、リムとスポークを再使用するよりホイールをアッセンブリーで交換した方が良いです。
自分で組むのが好きな人はアッセンブリーで交換して少し慣らし走行してからバランス取りしましょう。
要はアクスルシャフト径とドラム径が大きくなるので、それに触れる物は全部交換って事です。
となると径の変化と関係ないのはタイヤ、チューブ、リムバンド、ダストシール、インジケーター、リターンスプリング、ブレーキアームのボルトとナット、クッションアームのカラーです。
この中から交換した方が良い物はどれか。
まずタイヤは、デカドラム仕様にした場合、純正は2.5の太めのタイヤが標準です。
リアタイヤと同じサイズですが、フロントに付ける場合は、4PRという柔らかめのタイヤが設定されてます。
因みにリアタイヤの場合は同じ2.5サイズでも硬めの6PRです。
余裕があればタイヤも交換した方が本来のハンドリングを味わえます。
チューブやリムバンドは劣化してなければ替えなくても良いでが、長年替えてない人は劣化してると思います。
ダストシール(フェルト)は消耗品です、替えましょう。
インジケーター、リターンスプリング、ブレーキアームのボルトとナットは破損や劣化が無ければ再使用出来ますが、安いパーツなのでバラす手間を考えると買っちゃっても良いかな、と思います。
クッションアームのカラーは操安性に関わる重要パーツです。是非とも交換しましょう。
ここまで交換しちゃえば新しいホイールを丸々ひとつ組み替えるだけになるので、何かあればすぐに元に戻せるというのが一番のメリットです。
僕のようにホイールが再使用不可能な場合でなければ。
では組み付けの実際です。
組み付けは基本的にサービスマニュアル通りで大丈夫ですが、ホンダのマニュアルは初心者に対して不親切と言うか分かりにくい所が多々あります。
サービスマニュアルは本来プロ用らしいので、しょうがないんでしょうけど、プロだって詳しく書いて欲しいと思いますよ?
若い整備士さんが昭和バイクを直す事もあるでしょうし。
注意!
ホンダのサービスマニュアルに書いて無い事で重要な事があります。
ブレーキシューを組み付ける際、シューとブレーキカムの当たり面にグリスを塗るんですが、必ずシリコングリスを使って下さい。ついでなんで軸受け側にも塗ります。
つまり耐熱性の高いグリスを使いましょう、って事です。
シリコングリスは高いです。
安いグリスを使いたくなる気持ちは分かります。
でも、高速域から一気に減速しなきゃいけない時、ブレーキは周りは、かなりの高温になります。
ディスクブレーキのディスクが熱くなった時なんて、タバコに火を点けられた事があります!
ドラムブレーキでも、火傷する程度には熱くなります。
シューとドラムはかなりの高温になってる筈です。
もし、高温になったら流れ出しちゃうようなグリスだったら、どうなると思います?
シューとドラムの摩擦面に流れ込むと、その瞬間、摩擦力がほぼゼロになり、いきなりブレーキが全く効かなくなります。
高速域でこれが起きたら多分死にます。
死ぬなら幸せです。一生車椅子とか。
ホンダさん、何で一番危険で超重要な事書かないの?
プロなら知ってて当然だから?
いやいや、超重要な事は念の為にも書きましょうよ。
因みに「じゃあ恐いからグリス無しで組もう」とかもダメです。
高温でシューとカムが焼き付いたら、やっぱり効かなくなります。
ここはお金をケチらず、信用出来るメーカーの物を買って下さい。
僕はワコーズを使ってます。
そんな事知ってるよ、って人には余計なお世話ですね、失礼しました。
実走インプレです。
フロントブレーキの制動力は、明らかに向上してるのが乗ってすぐに分かります。
ただし、元の制動力が、他車のドラムブレーキと比較してもかなり弱いので、これで普通のドラムブレーキくらいになったかな?という程度です。
決してディスクブレーキのように強烈に効くような事はありません。
ボトムリンクとのバランスも良く、リンクの持ち上がる量に対して違和感なくブレーキも効いてます。
鉄カブのフロントフォークは現代のバイクと比べると動きが逆です。
フロントブレーキをかけるとハンドルが持ち上がって来ます。
これが序盤に書いた、フロント荷重を逃がす為の機構です。
当時の路面状況に合わせたシステムです。
だから最新のカブは普通のテレスコサスになってます。
デカドラムを付ける前
「ブレーキだけ強くなったらフルブレーキ時にフロントが伸びっぱなしになるんじゃないの?」
と懸念してました。
でも付けてみたら、さすが純正。
確かに110ミリの旧ドラムよりはボトムリンクが伸び易いですが、それはワザとフロントだけギュウギュウ掛けた場合で、実走すれば気にならない程度の絶妙なセッティングになってました。
当時は他のバイクもブレーキの弱い車種が多かったでしょうから、違和感無かったかも知れませんが、強烈なディスクブレーキに慣れてしまった現代人にとっては、デカドラムの方が乗りやすいです。
しかも純正なので、旧車はオリジナリティが大切と思ってる人にもおすすめです。
鉄カブはまだまだ実走可能な旧車ですからね。床の間コレクションにするには惜しいです。
実走するなら純正デカドラムは折角の旧車を守る為にも丁度良い保険だと思います。
では今回はこの辺で。
コメント
コメント失礼します。検索でこちらのサイトに来ました。
私もC70に乗っていてFブレーキの利きが悪くデイトナの青ブレーキシューに
交換したのですが、ノーマルとさほど変わらなくてガッカリした事がありました。
幹線道路で60Km/hで走行すると、今のままのブレーキでは心もとなく感じているので
いずれは主様のように大型ドラムブレーキを入れてみたいと思っております。
他にも、面白そうな記事が有るので、色々と読ませてもらいます。