今回はエンジンオイルのインプレです。ヒロコーの飛竜です。
今どきにしては珍しく、ひまし油をベースにしたオイルだそうです。
メーカーの説明はこんな感じ↓
「シルクのような滑らかさと体感する極太トルク
“成分:100%化学合成油
エステル化ひまし油ベース
「飛竜 15W-50」は数種類のエステルとひまし油で配合した製品です。
竜のごとく力強いフィーリングが感じられます。
■高粘度の割にはアクセルレスポンスが良く、 高回転域の伸びも良好です。
■高粘度ですので低回転域ではちょっともたつく感がありますが、回せば回すほどトルクが付いてきてパワーがモリモリ出てくる感じです。
■「ExpertSPECIAL 15W-50」と比べると、エンジンの回り方が非常に滑らかで、オイルに包まれている感じがします。
■特殊なひまし油を配合していますので、排気臭が甘いのも特徴です。
■絶版車/旧車/油冷/ハーレーなどの大トルク型バイクにも愛用されています。
■エステルの配合量が多い為、旧車に良く見られる経年劣化により痩せて固化したオイルシールを元の状態に極力戻す(オイルの滲み・漏れを抑える)効果もあります。
※飛竜SPECIAL は「HEATCUT」が添加してあり、更に熱に強く滑らかなトルクのあるフィーリングが得られます。
開発経緯
50番のオイルで特殊エステルを配合したオイルを作りたかった。サンプルを試してもらったところ、エステルの持つ滑らかさと、厚い油膜による太いトルク感が体感できて、エステルの焼けた甘い匂いがすると多くのユーザー様から絶賛されました。太いトルクは排気音さえもズ太くします。」
以上がメーカー説明文です。
ひまし油ってのは昔、甘くて香ばしい匂いを振り撒きながら各地のサーキットを席捲した伝説のゴマ油、カスターオイルです。カストロールの社名の由来にもなりました。
そのひまし油ベースの飛竜とMOTUL300Vを比較しながらインプレします。
前回ドリーム89とカブ70に入れたら良い感じだったMOTULの300V。
300Vに関しては悪い評価をあまり聞かないし、値段も高いので
「良くて当たり前だよな」
って感じがしてました。
オマケとして付いてきたメロンソーダみたいな甘い香りはラッキーでしたが。
その時のインプレも良かったら見て下さい。
個人的には総合点で最高峰と思ってる300V、嬉しくて乗りまくり、回しまくりました。
何かお気に入りのパーツとか改造とかした後って、用事も無いのに走り回ったりしたくなります。
ワコーズのトリプルアールを入れた時も、プロステージと比べると滑らかに回り、シフトもカチッと気持ちいいので走り回ったもんですが、300Vはそれ以上!
やっぱりトリプルアールよりパワーある気がするし、最初は暖機中だけかと思ってた甘い香りも、走行中に少し分かるようになってきました。
ブン回した後の信号待ちとかで、ほんのりとメロンソーダの匂いが。
土曜の夜の3桁国道。
笑いながら追っかけて来る月から逃げるようにスロットル全開固定!
シフトダウンと共にほんのり香る甘い香り。
メットの中でニンマリ笑顔。
「楽しいって、こういう事か」
と言ってしまった事もあります。
誰も聞いてないのに。
そんな思い出を心に刻んでくれた300V。
でも300Vを入れて900キロを過ぎた辺りから、異変が・・・。
気温高めの日の全開走行後、つまり油温が最高潮に上がった時、
少しペースを落として走ってると、エンジンから”カリッ・・・カリッ”という音が。
つまり全開走行中は風切り音と排気音と他のメカノイズで聞こえて無いんでしょうね。
すぐに道端に停めてアイドリングの音を聞くと
“カリッ・・・少し時間を置いてまた・・・カリッ”
と聞こえます。
ピストンスカート辺りが擦れてる音かな?と思いながらクーリング走行。
高めのギアで回転を落としエンジンに風を当てながら走ると音は聞こえなくなりました。
この時点では、気温が高い、長めの全開走行、などの条件が揃った時だけだったので、そのまましばらく乗ってました。
でも考えてみれば、サーキットなら1レース、つまり練習走行も含めれば300キロとか500キロでオイル交換なんて当たり前だし、使用回転数もサーキット走ってるのと大して変わらないんだから、レーシングオイルと考えれば、当然な気もします。
という事は前回のワコーズトリプルアールも300Vより劣ってたというより使い方の問題だったのか?
という疑念。
まぁいいや。それならそれで新しいオイルに巡り会うチャンス!と思い、
「さぁ次はどんなオイルを愛してやろうか」
と変態思考発動。
さしずめ、最強油膜に巡り会う旅路です。
試してみたいオイルは色々あるけど、とりあえずバイク用品店によく置いてあるヤツから試そう。
よく置いてあるって事は売れ行きが好調だから置いてる筈。
その中から、少し値段の高めなヤツを選べば、ある程度性能は良いだろうし、何より長期在庫で変質してるリスクが低い。
という訳で近所の用品店の在庫チェックです。
見て回ったのは、2りんかん、ナップス、ライコランド、レーシングワールド、南海部品。
どの用品店も有名処はだいたい抑えてます。
老舗の大規模メーカーのうち、カストロールは除外します。
昔はカスターオイルの伝説を作ったメーカーでも例の一件以来、嫌いになりました。
これも別記事に書いたので良かったら見て下さい。
そこで気になるのは小規模メーカー。
小さなメーカーは普通にやってるだけじゃ大手メーカーに勝てないから、それなりに良い物を作って来るんじゃないか?という期待を込めて。
そんな中から目に止まったのは広島高潤。
品質至上主義、その言葉を信じましょう。
実は品質より気になったのは”ひまし油”という単語。
カストロールのR30の思い出があるので、最近のカストロールの販売戦略は嫌いだけどカスターオイルは好きなんです。
ひまし油の焼けた匂いは昔のサーキットを思い出します。
という理由で選んだオイルはこれ。
ヒロコーの飛竜というオイル。
ひまし油をエステル化したベースオイルらしいです。
要するに、単なるひまし油じゃすぐに酸化しちゃって毎日オイル交換しなきゃいけないから、改良して公道用バイクに使えるようにしたよ、って事です。
油膜強度だけで言えばもっと凄いのもあるらしいんですが、近所の用品店に在庫が無かったし、飛竜のインプレに”ひまし油の匂いがする”という書き込みがあったので、つい趣味に走っちゃいました。
粘度は15w-50。
もう少し硬いのも試してみたかったけど、今入ってる300Vと粘度は同じなので、比較インプレとしてはこれでいいか、って感じで。
前回、カブに300Vを入れてから約1000キロ走りました。
ちょっと早すぎると思いますか?
このスーパーカブの場合、ちょっと走ってすぐ止まる、いわゆるチョイ乗りが極端に多いです。
オイルが充分に熱くなって、オイルの中に混ざった水分や燃料をちゃんと蒸発させて本来の濃度に戻る前にエンジンを止めちゃうので燃料希釈や水分混入によるオイルの劣化が早く進みます。
この種類の劣化は普通に使ってた場合のオイル劣化よりも早く進むみたいで、抜いたオイルをじっくり擦ったり嗅いだりしてみると、やたらとガソリン臭くてオイル粘り気が無くなってザラザラした手触りになってる事が何度もありました。
この乗り方だと本来なら3000キロ保つオイルが1500キロ位しか保たなかったりします。
朝の乗り出し時の暖機を長めにやるだけでもかなり改善しますが、それでもちゃんと油温を上げるような乗り方をしてるバイクには敵いません。
じゃあ、もっと安いオイルを買って千キロで交換すればいいのか?
チョイ乗りの部分だけで言えばそうです。
ただ、僕の場合、長時間全開走行をする事があります。
例えば、70キロ位しか出ないバイクで70キロ巡航してスロットル全開のまま、長い橋の登りをかけ登るとか。
その時、油温がかなり高くなっているのが、上が良く回る、アイドリング回転数の高さ、プレイグニッションの発生回転数の上昇、クランクケースカバーの熱さ、粘度低下によりカム周りの音が良く聞こえる、等から分かります。
つまり低温時と高温時にオイルに求められる全く違う耐性を両立させる為には”高いオイルを早めに交換するしかない”という究極の選択を迫られます。
それならプロステージみたいな安めのオイルでも50番とかあるじゃん。と思うでしょ?
あの10w-40とか15w-50とかのSAE粘度ってヤツは、あくまでも粘度特性です。
耐熱性とは書いてないはずです。
どれだけネバネバしてるか?って意味なので高温時の油膜保持力に全く無関係じゃないですが、最終的にはオイル自体が持つ分子の結合の仕方で決まります。
でもそんなものはパッケージには書いてませんから、メーカーの説明文を読んで、最強の耐熱性とか、強い油膜保持力とかの謳い文句を信じて買うしかないんです。
であれば、ベースオイルとして以前から競技での実績のある”ひまし油”なら現代でも最強か?は疑問ですが、少なくとも、ある程度のレベルには達してるんじゃないかな?
という理由もあって今でも、ひまし油ファンです。
では能書きはいい加減にしてオイル交換です。
フィラーキャップとドレンボルトの周りに付着してるゴミや汚れは事前に落としておきましょう。
まずはカブからモチュール300Vを抜きます。
少しでもオイルを抜き切る為にクランキングしたり車体を左右に傾けたり、を数回。
恒例のオイルチェック。
適度に黒いですね〜。ガソリン臭は、少し臭うけど、そんなに酷くないです。キラキラ光る金属粉の混入も無さそう。
肝心なのはここから。
指で擦って粘度の確認。まだ結構ネバネバしてます。粘度低下が指で分かる程には劣化してないようです。
これ、指で分かる程劣化しちゃうと、エンジン内部の摩耗が進んじゃうので、長く大事に乗りたいエンジンならその前に交換した方が良いです。
先にドレンボルトをトルクレンチで締めときましょう。勿論、ドレンボルトのワッシャーは新品交換です。
では、そろそろひまし油を開封しましょう。
一旦容器に出します。
色はこんな色。この前、モンキーに入れた、ヒロコーの4stスペシャルエクストラバージョンと同じ色ですね。
さて、ひまし油の見せ場!香りはどうかな?
容器に鼻を近づけてクンクンクンクン・・・
匂いが無い?
いや、無い訳じゃなくて・・・弱い。
新品状態での甘い香りという事ならモチュール300Vの方がよっぽど甘いですね。
ヒロコーの飛竜は微かに草みたいな匂いがする程度。
これはカストロのR30の匂いに似てます。
昔、R30を2ストレーサーで使ってた頃にも思いましたが、甘い香り、という表現には語弊があるように思います。
どちらかと言えば、香ばしい、の方が近いかな。
それも、いつでも香ばしい訳じゃなく、当時はキャブのレーサーなので混合気の空燃比、つまりガソリンの濃さによってかなり排気の匂いが変わります。
これは4ストでも同じですが。
2ストなら空燃比とオイル混合比とスロットルの開け方によってどんな燃焼状態になってるか?
これによって香ばしい香りがしたり、雑草の匂いがしたり、生ガス臭かったり、匂いが変わります。
4ストだと2スト程の変化はありません。
暖機前と暖機後で匂いが変わるくらいですかね。
ではカブに飛竜を入れます。
規定量入れてエンジンを少しフカしてエンジンを止めて数分待ちます。
オイルをヘッドまで行き渡らせた後にオイルが落ちてくるのを待ってる訳です。
それからオイルレベルを確認して上限をギリギリ超えないくらいならオッケーです。
オイルフィラーキャップの締め忘れに注意しましょう。
では実走インプレです。
エンジンのかかりは300Vより少し悪いような気がする。
新品だから硬いのかな?
排気臭は、まだ油温が低いので少し生ガスの匂いが混じってるけど、匂いが少ない気が。
アイドリングが安定してきたので、ゆっくり走ります。
メーカーの説明に書いてあった通り、少し低回転のトルクが薄いような気がする。
メーカーの説明では高粘度だから、との事。
なら油温が上がって粘度が下がった時に再確認してみます。
しばらく走ると回転上昇が軽くなってきたので、回転を上げます。
中速域、多分4〜5千回転位で振動が出る!?
ちょうど段々パワーが出始める辺りで。
それと共にエンジンノイズが大きくなった気が・・・
ノイズと言ってもブィーンって感じのいかにも4ストっぽい音なので別にいいけど。
今まで乗って来たバイクに比べれば微々たる振動なので気にはならないけど、このバイクでは始めての症状。
ただ、他のバイクでは良くある事なので気にせず、そのままスロットルを全開。
回転上昇と共に振動が無くなりパワーバンドに入る。
ん?トルクが強い?加速感がある。
70キロまでの到達時間が短い気がする。
ピークパワー回転数での計算上の速度は76キロ。
そこまで達するのが早い!
ただし、そのままスロットルを開け続けても、パワーバンドより上がやたらと伸びる訳じゃなく、無風状態での最高速は80キロ前後位で頭打ちします。
大袈裟に言えば、下スカスカでパワーバンドでドカン、上は伸びない。
・・・2ストみてぇだな!
と言う印象です。
特に下スカスカってのは、カブみたいな実用車にとっては最悪です。
実用車じゃなくても、街乗りやツーリング用途でもしたスカスカってのは乗りにくいし、トータルでは遅いです。
これは以前、2スト500と4スト600を日替りで乗ってた頃に痛感した事です。
パワーバンドドカンタイプが速いのはパワーバンドだけで走れるようなコースの中でだけです。
街乗り、ツーリング、実用性、なら圧倒的にフラットトルク型の方が向いてます。
それに止まってから冷静に考えると下が弱いからパワーバンドがより強い錯覚を起こしてるだけかも知れませんが。
ただし、実用性とは正反対の要素、
“おもしろいか?”
になるとパワーバンドでいきなり豹変する特性は脳内麻薬が出まくります。
スーパーカブに実用性を求めない、という贅沢!
元々、カブ70はカブシリーズ中、唯一のショートストローク、高回転型エンジンです。
実用面では90にしとけば良かったな、と思う事は多々あります。
ロングストロークの90なら低い回転からでもちょっと加速したい時、すぐにトルクが付いて来ます。これ、実用車には超重要です。
でも、それが出来ない70だからこそ楽しめる非日常がここにはあります。
「バイクは移動の道具じゃねぇ!」
とカブ70が訴えかけて来るような気がします。
それを更に助長してくれるこのオイルは遊びとしてのバイクをサポートしてくれてる気がします。
実際の速さや実用性よりも面白さを優先するならこういう特性もありかな、と思いました。
因みに油温が上がっても、排気の匂いが極端に変わる事はありませんでした。
2ストレーサーのR30の匂いの記憶が無意識のうちに基準になっちゃってるので採点が辛いかもしれませんが、僕の感覚では暖機中に少し甘いような気もするけど、暖機後は別に何も匂わない、というのが現時点での感想です。
それから冒頭に書いた高温時のカリカリ音は今のところ聞こえません。気温は今の方が高いんですが。
しばらく走り込んでみて、何か新しい発見があれば続編を書きます。
では今回はこの辺で。