今回はホンダの青山の本社に展示されてる往年のレーシングマシンを見に行きます。
ホントは茂木のコレクションホールに行きたいトコですが、そこまでの暇は無かったので。
1960年代なんて自分が生まれる前のレーシングマシンです。
リアルタイムで見た事はありません。
僕が知ってる一番古いレースシーンは1980年代のフレディ・スペンサーです。
その後、時代はワイン・ガードナーの全盛期になり、
その頃になると自分も免許とサーキットライセンスを取れる歳になりました。
サーキットを走ってみると、世界のトップライダー達がどれ程凄いのかが何となく分かりました。
レベルが違い過ぎて「とても真似出来ねえ」って程度ですけどね。
当時のレース用バイク、つまり市販レーサーってのは、全てが専用設計でした。
今でも一部の市販レーサーはそうだと思いますが、当時で言えば、公道用のNSR250と市販レーサーのRS250みたいな関係です。
友達がNSRに乗っていたので、僕のRSと並べて較べてみた事がありますが、車体各部の寸法からして尽く違い、共用出来そうな部品は殆どありませんでした。
RSの部品は徹底的に軽量化されていました。
例えば、カウル。
NSRのカウルと違ってRSのカウルは極薄に作られていてペラッペラです。
跳ね石で穴が開きそうな程薄いです。
軽さの為に全てを捨てた。
そんな感じがしました。
カウル程度ならまだしも、ボルト類に至るまで全てこの調子です。
素人目に見ても、公道で長期間使用するには強度が全く足りません。
もし、NSRと同じ寸法だったら、NSRに付けちゃう人が多分居たでしょう。
それを防ぐためにわざとNSRに付けられないような寸法にしたんじゃないかと思います。
ただ、バイク用のパーツなんてサードパーティー製の軽量化パーツなんて物も沢山出ているし、中には精度も耐久性もかなりヤバそうな物もあるので、結局は自己責任で管理するしか無いんですけどね。
特にロード系のパーツは。
逆にオフロード系のパーツだと、部位によっては公道用よりも頑丈な物も多いです。
特に足廻りの衝撃吸収に関わる所なんて、モトクロッサーやエンデューロレーサーのパーツはレーサーとしてのメンテ頻度を怠らなければ、かなり頑丈です。
リアサスのリンク周りとかステアリングヘッドベアリングとか、公道車両市販車よりサイズが大きかったり、シール類が分厚かったりする事が多いです。
その代わりグリスニップルが無い事も多いので、全バラメンテが基本です。
反面、全バラメンテ前提なので、エンジン周りに余計な補機が付いて無かったり、構造がシンプルだったりするのでエンジンのバラし易さはかなり良いです。
メンテに割く時間と金があるなら、オフロードレーサー、特にエンデューロレーサーは、市販車以上の耐久性があると思います。
ある程度長くバイクに乗っている人なら、曲がり始める時に、もう少しバイクが軽く早く寝てくれたらとか、スロットルの開け始めで、エンジンの反応が少し遅いなとか、感じた事があると思います。
メンテに割く多少の手間と兼ねてだけで、市販車とは段違いの車体とエンジンのレスポンスが得られます。
全てに於いて素早く反応してくれるエンジンと車体。
これがもたらしてくれる感動は若い頃の僕にとっては他の物で代替出来ない物でした。
最近は排ガス規制の関係で、色々大変ですが、キャブ時代は、そういう遊び方が比較的簡単に出来ました。
だから僕は市販車を改造してバランスを崩す位ならと思い、最初から正規登録したレーサーに乗ってました。
僕にとっては、レーサー特有のある部分で突出した高性能は思い出であり憧れでもあります。
速さだけで言えば、昔のレーサーより今の市販車の方が速いです。
でも、レーサー独特のダイレクトな感覚、タイヤがアスファルトの凸凹を噛む感じ、スロットルを開けた瞬間、上手くジワっと開けた時だけ、シュゴッという吸気音と同時に燃えたガソリンが地面をガツンと蹴る感覚、などなど、レーサーにしか無い物が沢山あります。
また、レーサーは特有の良い匂いがします。
ちゃんと走ってるレーサーは頻繁にメンテされてる、と言うか、それをしないと走れないので、メンテで使う油脂類の匂いが常に漂っています。
展示用保存車だと匂いが少し弱いですが、それでも独特の匂いはあります。
特に金属製パーツの多い古い車両は。
恐らく防錆剤も使ってるんでしょう。
元の鉄の匂いと交じり合って良い風味を醸し出します。
樹脂パーツの多い最近のバイクは軽いし、軽さは正義なのでそれはそれで好きなんですが、鉄を多用してある古いバイクの匂いと質感が一番好きです。
そんな金属の質感と、僕の好きなレーシングマシンのコラボ、それが1960年代の旧式のレーサーです。
それじゃ前置きはこの辺にしてまずはRC162から見ていきましょう。
冒頭にも貼り付けたこの写真。
パイプフレームといい、タンクの長さといい、ウチのドリームと似たようなシルエットです。
このタンクの長さだと、近年流行りのコーナー進入で思い切りフロント荷重しながらステップを後方に蹴飛ばして、フロントの内向性で瞬時にグリンと回頭するコーナリングは出来ません。
初めてドリームに乗った時は、あまりの乗り方の違いに戸惑いましたが、これはこれで当時の乗り方ってもんがあるみたいです。
誰もハングオンも膝擦りもしなかった時代、そもそも車体剛性もタイヤのグリップも低かった時代です。
ブレーキングでリアが跳ねる程、フロントが沈み、そのまま一気に膝とブーツの外側が接地する程寝かし込み、内側に転がろうとするフロントと跳ねるように外側にスライドするリアを外側のステップと内腿で抑え付けながら、
場合によっては、わざとステップを接地させて少し浮いたリアを外側に吹っ飛ばして無理矢理脱出ラインに乗せたりするような、タイヤとフレームに負担を掛けまくるコーナリングは、高剛性フレームとハイグリップタイヤが在ってこそです。
当時、このRC162に乗っていた、マイク・ヘイルウッドが何故ああいう乗り方だったのか、このフレームとタイヤの性能を引き出す為の工夫だったんだと思います。
とりあえず、フォームだけでもマイク・ヘイルウッドの真似してみよう、と思って、派手にケツをズラしたり、コーナー初期で思い切りフロント荷重したりせずに、リア荷重を残しながら、リアを寝かせるとフロントが付いて来るようなリーンをしてみると、ドリームは弱アンダー感を残しながら、スムーズに曲がってくれるようになりました。
ここでひとつ気付いた事があります。
「公道ならこっちの方が気持ち良いんじゃねぇの?」と。
今どきの大きく荷重移動するコーナリングってノリノリの時は良いんですが、疲れて来た時はちょっと面倒臭いんですよね。
力まずにダラーッと曲がれて適度にケツに荷重してる感じ、弱アンダーにセッティングされたバイクだから出来るこの感覚。
今はホンダでテストライダーをされている往年のレーシングライダー宮城光さんによると「とてもハンドリングが良くて乗り易い。狙った所に自然に走ってくれる」そうです。
言われてみれば、ハングオンに適したセッティングになってるハンドリングって、少々過剰な内向性を持たせる事によって、ハングオンした時の大きな荷重移動とバランスさせているような気がします。
そういう最近のバイクはタイヤも太過ぎです。
サーキット走るならいいんですよ。ある程度太い方が間違いなく速いです。
でも、そこまでバンクしない一般道の走行なら、太過ぎるタイヤなんて切り返しが重くなるだけです。
荒れた路面の影響も受け易いし、振られた時のオツリもデカい。
一般道での太いタイヤってメリット無いような気がします。
因みにワインディングを攻めるのは問題外です。スポンジバリアもセーフティゾーンも無い所で心おきなく限界走行なんて出来ません。
ツーリングルートとして通る分には気持ち良いですけどね。
ツーリングの筈なのにコーナーが迫るとつい「カメ」と叫びたくなってしまう人の気持ちも分かりますが。
おっと、また話が脱線しました。
RC162を見ていきましょう。
タイヤは懐かしのTT100GPですね。このタイヤ、レトロなパターンに騙されちゃいけません。現代でも充分通用するハイグリップタイヤです。減り早いですけどね(T_T)
フロントのドラムブレーキ。デカいすね!さっきの左側からの写真に写ってますが通気孔があります。走行風で冷やす為です。リンク機構も複雑な物が付いてます。
こういう市販車には無い装備、いかにもGPレーサーって感じで萌えます。
リムはH断面です。軽くする為にアルミを使いたいけど、強度が足りなくなる。だからH断面って事です。ドリームもH断面のアルミリムです。
カブはU断面の鉄リムです。
用途によって材質や形状を使い分けてます。ドリームやRCのアルミリムは速さの為に色んな物を犠牲にしてます。
タイヤ交換の時はリムプロテクター使わないと柔らかいアルミ地に傷が付くし、H断面は加工に手間がかかるので高いし、雨天時や洗車時に水が溜まって面倒臭いし、衝撃吸収性は元々の素材に弾性のある鉄の方が丈夫です。
それでもそんな面倒臭いパーツを使うこだわり!嫌いじゃないです。
コクピット?です。写真が見にくくてすみません。タコメーターの下限の表示が5000rpmからしかありません!
低回転はスカスカ過ぎて使わないって事ですね。アイドリングもしないのでこれでオッケーです。
昔乗ってたRS250(HRCの2ストロードレーサー)もアイドリングしませんでしたが、元々キャブ にアイドルアジャストスクリューが付いて無いんです。
あれを付けるとスロットルを全閉にしても少しだけスロットルバルブが開いてる状態になるのでエンジン回転の下降速度が落ちるんです。
これが一番影響するのはシフトアップの時です。サーキット走行では基本的にノークラシフトです。
スロットルを一瞬戻して、その一瞬でシフトアップします。レーサーは逆シフトなんでシフトペダルは下に落としますが。
ここでレスポンスが遅いとタイミングが取り辛いんですよ。シフトアップでモタモタしてるとタイムも遅くなりますし。
それはともかく、このトップブリッジ周りのテカテカ光る金属感。工芸品のようです。こういう見ても楽しめる質感が古いバイクの良さですねぇ。
ただ、自分のバイクをここまでやるか?と言われたら、バフ掛けの苦労を想像しただけでゲッソリします。
キャブレターです。元祖CRキャブですね。このRC162のような同時のワークスレーサーがRCという名称だったのに対し、市販レーサーはCRでした。ドリーム50の元になったCR110みたいに。
その市販レーサーCRに採用された事からキャブの名前もCRになったらしいです。このレーサー用としてのCRキャブには前述したようにアイドリング機構は付いてません。
後に空冷4発チューンとかで有名になったCRスペシャルになるとアイドリング機構が付きます。
CRスペシャルをゼファーに付けてた事がありますが、メインボアに余計な凹凸が殆ど無いホントのスムーズボアでした。
スムーズさで言えば後にXR600に付けたFCRより断然上でした。
そのせいか、スロットルを開ける度にシュゴーッというやる気にさせる吸気音を聴かせてくれたもんです。
この写真の元祖CRのアルミファンネルも良いですねぇ。これ見てるとドリームにCR-miniを付けたくなります。
ステアリングダンパーです。ステダンって本来ならジャダーとかの微振動を抑える為に付いてる物なんですが、僕の経験上、バンキングのし易さとフルバンク時の安定感に貢献してたような気がします。
これを僕なりに考えてみました。RS250にアジャスト付きのステダンが付いてたのでサーキット走りながら弄くり倒した経験が元ネタです。
バイクを寝かせ始める時はハンドルは真っ直ぐ、更に言えば逆操舵になってた方が寝かせ易いです。
でも、バイク本来のセルフステア機能によりハンドルが正方向に切れようとします。
ステダンがあれば、これをワンテンポ遅らせてくれるのでバンキングが軽くなる感じがするのかな?と。
で、フルバンク時にはステアリングと地面が近くなる事とハンドルの切れ角により相対的にトレールが減少します。
トレールの減少により不安定になったステアリングをステダンが抑えててくれれば安定するんじゃないか?と。
本来の使い方じゃないのは分かってますが、結果として乗り易くなるので僕はステダンが好きです。
エンジンです。このRCワークスレーサーシリーズのエンジンは単気筒から6気筒まで実にバラエティー豊かです。これは4発バージョン。
このRCシリーズのエンジンの設計者は凄いです。こんな2万回転弱まで回る、つまりエンジン内の温度が低い時と高い時のパーツ間のクリアランスが大きく変わるエンジンを空冷で成し遂げてるんです。
空冷って温度、つまりクリアランスに関して言えば2ストみたいなもんです。
ピンポイントで狙った領域の性能しか出せないって意味です。ちょっと語弊がありますが、それほど空冷の温度管理が難しいって事です。
エンジンオイルだって当時は化学合成油なんて無かった時代です。鉱物油か植物油です。さすがに鉱物油じゃ保たないでしょうから植物油を使ってたのかも知れませんが、それでも焼き付きとかは多かったでしょうね。
当時はほぼ空冷しか無かったんだから、その中で試行錯誤した結果なんでしょうが、それでこの高回転、しかもちゃんとパワー出して。ゾクゾクします。
リアサスです。最近のタンク別体とか極太ダンパーとか見慣れた目には、なんともシンプルな感じ。
スプリングの線径がドリームよりかなり太いような気が。ノギスで測ってみたかったけど展示車なので止めときます。
斜め後ろからの眺め。良いっすねぇ。やっぱ赤もいいなぁ。
子孫との2ショット。タイヤの太さの違いが目立ちますが、何もかもが違います。
乗ってみたいです。無理ですけど。
隣に展示されていたRA273です。四輪については遊びで数回カートに乗った事がある程度なので、あまり詳しくないんですが、前回カフェカブミーティングでココに来た時に展示されていたSTR13と比べると二輪と同様、何もかも違うな、という程度は分かりました。
上の写真がRC162のタコメーター。下がRA273のタコメーターです。年式で言えばRCよりRAの方が5年程新しいんですが、見た目は似たようなアナログメーターです。
ここからは想像ですが、レーサーでは、良く使う回転域が上に来るようにタコメーターを取り付ける事があります。
レース中はタコメーターをのんびり凝視してる暇なんて無いので、パッと見で分かりやすくする為です。
特にRAの取り付け角度なんて「数字なんか見ねえよ」と言わんばかりですね。もしかしたら9000〜12500位を常用してたのかも知れません。
ピークパワーが10500rpmなので針の角度だけ見てたんでしょう。
RCの方は数字がちゃんと見える角度ですね。余程パワーバンドが狭いのか、マイク・ヘイルウッドが几帳面な性格なのか。
工芸品シリーズ。いいっすねぇ。このピカピカ加減。この時代のマシンだから似合う気がします。
みんな大好きエンジンちゃん(^^)。このエキパイと分かりやすく突き出たファンネル!呼吸してるぜ感満載です。
この写真撮る時、触れそうな程近付いたら、何だか良い香りがしました。燃料関係は完全に抜いてあるだろうから、燃料系の匂いじゃない筈。植物油のカーボンの香りに似てるような、違うような。
如何でしたか。これを読んだら、YouTubeか何かでこのエンジンのエキゾーストノートを聴いてみて下さい。
最近のレーシングエンジンとはちょっと違う音がしますよ。当時の技術屋達の夢のカケラを感じられるかも知れません。